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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(あ)2187号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意一について

所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

同二について

所論は、原判決は、昭和二五年神奈川県条例第六九号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下「本条例」という。)を有効としているが、公安条例の許可制が実質的な届出制でないことは、何人にも明らかとなっており、治安当局による公安条例の恣意的解釈、濫用拡大によって憲法一一条、二一条が空文化しているのが現実的姿であり、本条例は、明らかに憲法一一条、二一条に違反すると主張する。

しかし、本条例は、集団行動につき公安委員会の許可を要求している(一条)が、公安委員会は集団行動の実施が「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」のほかはこれを許可しなければならないとされ(三条)、許可が義務づけられ不許可の場合が厳格に制限されているのであるから、本条例の許可制は、その実質において届出制と異なるところがないのである(最高裁昭和三五年(あ)第一一二号同年七月二〇日大法廷判決・刑集一四巻九号一二四三頁参照)。また、所論のように、治安当局がその権限を濫用し許可すべき集団行動を不許可にしているという事実は、記録上全く認められないのである。所論は、前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

同三のうち、本条例三条に基づく条件に違反することが五条の処罰の対象となること自体「罪刑法定主義」及び「三権分立」に反し違憲無効であると主張する点について

所論は、違憲をいうが、原判決のどの判断が、いかなる理由で、憲法のどの条項に違反するかを具体的に示していないから、適法な上告理由にあたらない。

同三のうち、「かけ足行進」「隊列のことさらな停滞」の禁止が憲法一一条、二一条に違反すると主張する点について

所論は、違憲をいうが、原判決は、かけ足行進や隊列のことさらな停滞が交通秩序をみだす行為である旨認定しているのであるから、原判示にそわない事実を前提に違憲をいうもので、適法な上告理由にあたらない。

同三のうち、「ジグザグ行進」「うず巻行進」の禁止が違憲であると主張する点について

所論は、集団行動の自由は表現型態の自由を抜きにしては空疎なものとなるから、ジグザグ行進やうず巻行進を禁止することは違憲であると主張する。

しかし、思想表現行為としての集団行動は、表現の一態様として憲法上保障されるべき要素を有するものであるが、ジグザグ行進やうず巻行進は、かかる思想の表現のために不可欠のものではなく、これを禁止しても、憲法上保障される表現の自由を不当に制限することにならないのである(最高裁昭和四八年(あ)第九一〇号同五〇年九月一〇日大法廷判決参照)。所論は、前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。

同三のうち、その余の点について

所論は違憲をいうが、本件集団行動に付された条件は、個々独立の意味を有し、個々に構成要件を補充するものであるから、被告人は、自己の行為と法律上、事実上の関連のない許可条件につきその違憲性を争う適格を欠くものというべきである。所論は、適法な上告理由にあたらない。

同四について

所論のうち、違憲(憲法前文、一一条、一四条、一九条、二一条、三七条一項違反)をいう点は、原判決の被告人に対する科刑(懲役三月、執行猶予三年)が、所論のように思想、信条、肩書を理由とする差別的量刑であるとは認められないから、所論は前提を欠き、その余は、量刑不当の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

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